私は60年代に両親の出身地でもある
地方都市で産まれた
父は23才、母は19才だった

その数年後に移住したのだろう
記憶は都心近郊の街から始まる
両親が縁もゆかりも無い土地に越して来たのは
仕事関係などではなく、単に都会への憧れと思う

3階建ての広めの賃貸マンションで
1階はスーパーだった
ここで家族3人、住んだ期間は全く覚えていないが
3人揃った記憶は僅かしかない

母と2人で過ごす事が多かった
サイドボードの上には父の写真が飾ってあり
「パパはお仕事でいないの」と言っていた
父は娘の私から見ても美男子だった
外国人なのではないかとずっと思っていた

父が帰って来ると
母はいつのまにかいなくなる事がたまにあった
後追いして泣いた記憶は無いが
そんな時は父と2人でつまらない夜を過ごした
父は大人同士ではない会話を
鼻にもかけていない様子で
のらりくらりとかわした
テレビはマンガではないものを見るし
レコードも聞けない
夕飯はだいたい具無しのインスタントラーメンだった
家で父はゴロゴロしていて
私にもう寝なさいと言った
窓から夜の景色を眺めると
シャッターを閉めた商店や町工場、駅から徒歩で帰宅するサラリーマンが見える
パパは何の仕事をしてるんだろう?
ショッカーなんじゃないかと思った事もある
それほどたまにしか帰らない父には
生活感というものがまるで無かった