テレビの歌番組はもちろん、

深夜に両親が私を連れて行く店々には

流行りの歌謡曲が有線で流れていた

私はいつも不思議だった

なぜこんな歌が売れているのか?

飲み屋で泣くような女の気持ちが共感できるんだろうか?

そういう歌の中の女はだらしないと思っていた

ホームドラマの母親像とはかけ離れていたからである

 

少なくとも我が家には専業主婦の母がいて

余裕ある暮らしが出来ているのは

父の出張が多いからだと思っていた

 

ある日、父が好きな女優の話題になった

私はまたしても共感できなかった

厚化粧のロングパーマで

あまり笑わない頬のこけた女優だった

母とは全く違うタイプの女性だったので理由を聞いたら

「パパの亡くなったお姉さんに似てるんだって」と母が答えた

私はまじまじと女優の写真を見つめ、

父はハーフに見えるほどのハンサムだから

お姉さんも美人だったんだろうと思った

 

母は専業主婦で家事もしたが

それでもホームドラマの母親像とはまた違った

若すぎるというのが大きな理由だが

マンションの近所のママともまた違った

子供の私が理不尽を感じるような

その場しのぎが母にはあった

言った事とやった事が合わず

ちぐはぐで一貫性が無い事で私は戸惑った

「前はこう言ったよね?」と確認しても

「きっとその時はそうだったんじゃない?」と

納得するのが難しい返答をした事もあった

そういう時の母は決まって

うろ覚えの笑い話をするかのようだった

今にして思えば

それは臨機応変などという

経過と結果を分析したものではなく

良く言えば適当、悪く言えば嘘だった

 

だから歌謡曲の女とも、

ホームドラマの母親像とも、

また違うタイプだと感じていた