そのうち父はスナックを経営し始めた

母は何度か私を連れて行った

 

母は父と一緒に店を切り盛りするのではなく

あくまで マスターの妻 として

店に顔を出した

 

年配の女性は皆にママと呼ばれ

私に笑顔で優しく接してくれたが

いたわるような心配するような眼差しを

度々、私に向けるのが印象的だった

それは店の若いお姉さん達には

まだまだ到底できないものだった

 

薄暗い店にはライトが点灯するガラスの戸棚があり

形もラベルも綺麗な洋酒の瓶や

様々なグラスが輝いて並んでいた

そのカウンターの中で父はシェーカーを振っていた

私はカクテルに飾るフルーツを食べさせてもらったり

リキュールの香りを嗅いだりして遊んだ

母はいつもカウンター席に座り

店員や常連客らしき人と話し込んで盛り上がっていた

 

夜も更けると

私は1人で帰される事が殆どだった

店のボーイが車で送るか

父か母にタクシーに乗せられ帰宅した

半分眠った私を玄関で祖父母が出迎えて

もう遅いからとお風呂は入れずに

パジャマに着替えさせてもらい布団に潜った

 

毎回いろいろ世話をやかれながら

何となく祖父母は不機嫌なのではないかと思っていた

父の店に向かう前の祖父は無表情で言葉も少なく

「気を付けるんだよ」も真剣な顔つきで言うのに対し

祖母は常にハラハラした様子だった

私が帰宅した後は

祖父には困惑が、祖母には安堵が

それぞれプラスされていた

だから外出時の雰囲気が完全に消えたわけではないと

何となく確信めいたものを感じていた