雪がとけて暖かくなった頃、

カナエちゃんの妹が産まれた

赤ちゃんはママが編んだ靴下を履いていた

カナエちゃんは名前の他に

「お姉ちゃん」とも呼ばれていた

 

カナエちゃんはいつもと変わらなかった

そんな態度に私は しっかり者 の印象を持った

カナエちゃんのママも2人目らしく

ましてや同じ女の子なので落ち着いていた

 

そんなカナエちゃん親子の様子を

母は 素直じゃない と受け取めていたらしい

目に見えて喜ばず、誰も頼らない

そんな態度に理解が出来なかったんだと思う

「おめでとう」や「かわいいね」を笑顔で称賛できる私を見て母は喜んでいた

 

ある時、カナエちゃんと私は

赤ちゃんを少しだけ見ていてと頼まれた事があった

近所の商店へ足りないものを買いに行くので

すぐ戻ると言っていた

赤ちゃんは眠っていたので私たちが困る事は無かったし

商店はほんの近所でカナエちゃんのママはすぐに戻って来た

「お姉ちゃんたち、ありがとう」

カナエちゃんのママが私たちにお礼を言った時、

私は嬉しいような恥ずかしいような

くすぐったい気持ちになった

 

もし赤ちゃんが途中で泣いたら

あやしたりするのはカナエちゃんであって

私ではなかったはずなのに

どういたしまして と自信を持って言えるわけではないのに

 

この時、私は

謙遜しなければいけないという思いが頭をよぎった事を覚えている

でも思いがけず褒められてお礼を言われ、

ましてや「お姉ちゃんたち」と

カナエちゃんと同じく呼ばれた事が

嬉しくて嬉しくて

困ったような笑顔を浮かべるだけで

何も言葉を返せなかった

 

なんだか甘いけど酸っぱい果物を食べた時みたいな気持ち…

私は夢見心地だったが、ふと気付いた

カナエちゃんもこんな気持ちだったんだ…

 

雪国が早めの秋になる頃、祖父は

私が春から通う小学校までの道案内をしてくれた

外出はいつも車だった私にとって

かなりの距離だったし曲がり角もたくさんあった

 

「広い方の河を渡ったら2つ目の信号を右へ。

しばらく行くと横断歩道の先の金物屋を左へ。

公園を通り過ぎて病院の裏が小学校のグランドだ。

グランドを横切って下駄箱まで行けるよ」

(かなり省略してあります)

 

ややこしかったが私は1回で覚えなくてはならなかった

こんな長い距離をもう1度、祖父に歩かせるのは気が引けたし

幼稚園にも保育園にも通っていない私には

同じ年齢や年上の知り合いがいなかった

 

「分からなくなったら歩いてる人に訊けばいいんだよ」

まるで他人事のように笑いながら父は言った

 

ある日、母が言った

「ママねぇ、赤ちゃんが出来たの」