おそらく眠った状態で深夜に帰宅する私は
昼頃に起床し空腹を感じれば食事をとる生活だった

「起こしても起きないんだもん、ねぼすけだね」
よく母に言われた言葉である
そこには甘やかしと呆れが混ざっていた

家の中には退屈しないものが揃っていた
おもちゃはリカちゃん人形とおままごとで
どちらかというと遊んでもすぐに飽きるものだった
逆にいつまでも遊んでいられるものは
付録付きの幼児雑誌、絵描きノート、折り紙、ぬり絵、ビーズなどの幼児向け手芸品で
童謡のLPレコードを聴きながら遊んでいた

ある日ひらがな練習帳をもらった
字を覚えれば自分で何でも読める
本はもちろん、付録も自分で作れるし歌詞も覚えられる
そして何より手紙が書けるようになるのが嬉しかった

午後になると近所の子供達が幼稚園から帰って来る
私は幼稚園に通っていなかった
なぜなら母は自身の教育方針に絶大な自信を持っており
家庭でも引けを取らない教育が出来ると豪語していた
その方針はのちに妹にも引き継がれたが
でも私は同年代の同性の友達が欲しかった

近所の子供達の中には
意地悪な子もいた
マンションの一番近い部屋に住むミカちゃんは
私の記憶では初めての子供同士だった
でもミカちゃんもそのママも
私には氷のように冷たかった

3人姉弟もいた
長女ナオちゃんは自信無げでいつもメソメソしている子だったが
次女ユウちゃんはハッキリした性格だったので
よくケンカもしたが仲直りして笑い合った
いちばん下のアキラくんはやんちゃな甘えん坊だった
ここの家のお父さんは近くの工場で働いていて
顔も作業着も真っ黒にして夕焼けの中を帰って来る
夕飯のあとにお風呂に入って
テレビを見ながら川の字で眠るんだと言う
ホームドラマで見た事のある幸せな家庭が想像できた

管理人さんの娘ヨッちゃんは大人しくて優しい子だった
管理人さん夫婦も私達家族にとても親切だった
よくミカちゃんとヨッちゃんの取り合いをしたのを覚えている
ヨッちゃんはいつもハッキリ答えず困った顔をするだけだった