私は母の実家で過ごす事が多かった

母と行った事もあるが
祖母が帰る時に一緒について行く事がほとんどだった
母と離れる事は寂しくなく
笑顔で手を振った事を覚えている

逆に私が遊びに行っている隙を見て
祖母が帰宅した事があり
私は祖母が恋しくて何時間も泣きわめいた記憶がある

いずれの場合も母は
「私が産んだ子なのに…」と思ったそうだが
今にして思えば物心がつく前から
祖父母はもちろん、様々な人に預けられた経験が
人見知りではない性格につながったのだと思う

母の実家は公営の長屋で
近くには公園や児童会館もあり子供達も多かった

祖母は温もりのある人で私は大好きで懐いていた
母より祖母が好きだと即答できた
祖父は私を眺めているだけで満足だったのかもしれない
自分から私に話しかける事もなかったが
怒られた事はなかった

夕方になると前掛けをつけた祖母が
公園に私を呼びに来る「ごはんだよ」
ささやかな夕飯だがとても幸せだった
暗くて狭い台所には
金属で出来た小さなおもちゃみたいなものが置いてある
聞くと火の神さまだそうで
台所の火の用心をお守りして下さるそうだ
もう1人小さな神さまがいたのだが
何の神さまだったか覚えていない
水の神さまだったのかもしれないと思う

母の実家へ泊まりに行くと最短で1週間は滞在した
逆に祖父母が私の家に来てもそうだった
飛行機に乗るのが理由だったが
それでも1年に数回は行き来があった

何度か泊まりに行くうちに私はふと思った
その日も夕方に祖母が公園まで私を迎えに来た
前掛けで手を拭きながら呼ぶ祖母を見て
なぜこんなに安心するんだろうと疑問に思った
そしてそのデップリとした体に抱きついて
祖母の顔を見上げて分かる
ここでは規則正しい日常生活が行われている事だった

朝起きて朝ごはんを食べて皆が出かけて行き
皆が帰って来て晩ごはんを食べるという
ホームドラマと同じ日常が流れていく事だった

小さな頃から漠然と感じていたのは
祖父母から与えられる健全な安心感だった