ある日、やっぱり幼稚園に通わせようと

母が私を連れて下見に行った

母が好きそうなカトリック系の幼稚園である

今にして思えばあれは見学会などではなく

編入生として途中から通園する形だったと思う

教室の後ろのドアからそっと中を覗くと

同じ制服を着た子達が席から一斉に私を見る

この子達の友達関係はすでに出来上がっているのは一目瞭然である

あれだ~れ?

しらな~い

キャハハ…

数日悩んで私は幼稚園に行きたくないと母に言った

「制服も靴も鞄も支払い済みなのに…」

のちに母は面白そうに話す時と

イヤミに話す時と両方あった

でも日本の幼稚園の制服制度は

個性が発揮出来ないのでダメだと言っていた

 

いつだったかヨッちゃんに

近所にある駄菓子屋を教えてもらった事がある

子供だけで横断歩道を渡ったのは

その時が初めてだった

老夫婦が細々と経営している駄菓子屋は

古かったが品揃えは豊富だった

いつも母と買い物へ行くスーパーには無いものが置いてあり

そのパッケージには懐かしい見覚えがあった

母の実家の近所には市場があって

その中のお菓子屋さんには様々なお菓子があった

普通にスーパーで売っているようなものから

大きなガラス瓶に入った計り売りのものまであった

そしてその一角にこぢんまりと駄菓子コーナーがあった

そこで祖母に買ってもらったものが

この駄菓子屋さんにはあった

パッケージの懐かしさはもちろん、

おこづかいで何種類か買える安さと

おみくじや風船などのちょっとした遊び道具もあり

私はこの店が大好きになった

家に帰ると母にこの事を話したのだが

あっさり却下されてしまった

それは交通事故に遭う可能性の心配ではなく

テレビでコマーシャルをしていないお菓子は

体に悪いものが入っているから食べちゃダメとの事だった

マンションの友達が食べている事については

「人は人」と言った

私が祖母から買ってもらった事を伝えたら

仕方がないというような事を話し続けた

それは祖母の添加物に対する知識不足を非難したのではなく、

預かってもらう立場だから指摘できないという意味だった

 

その後、駄菓子屋の前を素通りする事がたまにあった

横断歩道を渡らないので、正確には

駄菓子屋の向かいの通りを歩くという事だが

私には売っていた駄菓子よりも

店主の老夫婦が気になった

ゆっくりとした動作と口調、

お釣を渡してくれる両手や眼差しの皺くちゃな温かさ…

 

駄菓子屋で買って来たおやつを

ヨッちゃんが分けてくれる時もあった

体に悪いものの話をすると

ヨッちゃんはキョトンとしたあとに

気にせず食べ続けた

私達はニッコリして2人で駄菓子を堪能した

でもこの秘密がいつ母にバレるかと

落ち着かない数日を過ごさなくてはならなかった